05/19/2010 – 5:17 pm
インタビュー:
ジャパンテクノロジーグループ 矢口太郎代表・弁理士に聞く
「知財ビジネス、これまでの10年、これからの10年」
――ジャパンテクノロジーグループ(JTG)は米国に本拠を置き、日米欧をまたぐ国際的な産学連携・技術移転に特化した活動を展開する日系のコンサルティングファームである。今年で米国での弁理士活動10年目を迎え、この間、米国や世界の知財ビジネスを見てきた矢口太郎代表・弁理士に、日本の知財ビジネスのこの10年間を振り返えるとともに、今後の10年間に必要なことを語ってもらった。
私は日本と米国で弁理士登録をし、両国で特許事務所を経営している。国際的な産学連携や技術移転にかかわったきっかけは、日米において大学からの特許出願等を数多く取り扱っていた関係で、米国のほとんどの大学の知財関係者が加盟しているAUTM(Association of University Technology Managers、大学技術マネージャー協会)に出席したことだ。2003年に出席したこの会議で当時の日本の現状を初めて知り衝撃を受け、特許事務所とは別に、知財ビジネスを行うためのJTGを立ち上げることにした。その後、ジョンソン&ジョンソン社やジェネラルミルズ社など、オープンイノベーション指向の欧米企業を日本の大学に紹介する活動を始めたことで、まず米国内において日本の技術への窓口としての認知度を獲得し、それを徐々に高めてきた。現在では、日本の国立大学、私立大学など複数の機関と契約し、日本から米国、海外へ向けた国際技術移転も手伝っている。たとえば、日本の大学の技術展示会を米国で毎年開催しているが、昨年は合計7回開催した。
米国で知財ビジネスといえば、特許流通や技術移転だけを指すわけではない。訴訟補助や翻訳・通訳等、あらゆるビジネスが含まれていると思う。また、特許・技術移転業者に限っても“技術ライセンス”と呼ばれる商業化指向の会社と、“特許ライセンス”と呼ばれる訴訟指向の会社とに分かれている。このため、日本では考えられないが、米国での知財ビジネスは、どこも弁理士や弁護士が率いていることが多い。JTGも弁理士・弁護士が率いており、その意味では強固でかつ一般的な米国の知財ビジネス業者の経営形態を敷いているといえるだろう。
日本での特許流通や技術移転については、国の後押しが始まって10年が過ぎた。率直な印象としては、日本政府が取ってきた政策は、立法を含め、一応の成功を収めたと思う。今後、政府は一歩後ろに引きながら、特許・技術移転や知財ビジネスに携わる民間事業者、大学の力による産学連携等を見守っていくことが求められる。知財ビジネスが世界で最も成功していると思われる米国では、政府主導という発想は実は存在していない。また、産学連携の成果を上げている大学といえば、アイビーリーグに代表される私立大学ばかりなのである。日本でも同様、民間事業者が自分の力で稼げるようにならなければ、このビジネスは本当の意味で活性化し、根付いてはいかないと思っている。
ではどうすれば、民間事業者の事業が活発化し、ユーザーである日本の企業や大学等に受け入れられ、彼らに貢献できるようになるのだろうか。公的な支援サービスや大企業の自前主義がいまだに幅を利かせている現状を考えると、日本国内の技術移転を扱うだけでは、民間事業者の事業の活発化は難しいと思う。日本では、民間事業者が公的サービスと比較して明確に勝っている部分は、国際的な支援にあると考える。事業としてこの部分を強化することが、日本の民間事業者のビジネスチャンスの拡大、獲得につながると思う。
たとえば日本でもこの2年ほどで、“オープンイノベーション”という言葉を知らない知財関係者はいなくなった。我々は、海外のオープンイノベーション企業を日本の大手企業に紹介することも多いが、そのときに感じるのは、日本の大手企業でも、海外企業との連携の経験がほとんどないということである。したがって、本当の意味でのオープンイノベーションが始まっていくのはこれからだと思っている。オープンイノベーションの進展とあいまって、国際的な特許流通や技術移転について日本の大手企業のモチベーションもこれから高まっていくだろう。そこに民間事業者の活動領域が生まれつつある。
一方、中小企業に関していえば、彼らの事業のために彼らの特許をいかに守り、生かすか、あるいは外部から導入し、生かすかが重要なポイントとなることは、誰もが指摘している点である。だが、日本の中小企業の社長や個人発明家は、知財に対して十分な手当てが未だにできていない。この理由は、資金が少ないために適切な専門家を雇うことができないからであり、一方で、知財を甘く見ている経営者や個人発明家が多いからである。たとえ個人発明家であっても、結局、単なる製造業の社長になるのか、真の成功した発明者になりたいのかを真剣に考える必要がある。また大学も、1発明につき1件の特許出願で満足しており、その結果、発明を実際にビジネスに供しようという検討に入る段階になって、知財の部分が実は非常に弱いということを初めて発見する、ということが多い。こういった事態を回避したり助けたりするため、JTGでは米国において、個人発明家や研究者等が特許のポートフォリオを構築するための資金を集めるファンドを設立した。加えて彼らが専門家にアクセスすることで助言を得やすい環境を整える事業を行っている。
先ほど、日本の民間事業者の活動を充実させるには国際的な事業が重要だと指摘し、またオープンイノベーションの流れはこれからだ、という話をした。では国際化について、日本の企業、知財ビジネス事業者など各プレーヤーの能力は、この10年間で培われてきただろうか。はっきり言ってこの分野は、技術というよりも人の問題が大きい。すなわち、英語の問題である。単に語学力の問題であれば、たとえば外国人を雇えば良いということになるが、外国人では日本発の技術移転はあまりうまくいってはいないのが現実である。国際的なコミュニケーション能力を持った日本人の人材が求められているのだ。しかし、将来性はあっても実際にはあまり儲かっていないこの業界が、優秀な人材を数多く集められるかは疑問である。その意味では、弁理士や弁護士等が、専門家として知財ビジネスにもっとかかわり、事業の領域を広げていく先導者となるべきではないだろうか。
今後、10年間、企業の商品開発は、よりアイデア指向、スピード指向となることが考えられる。これに見合う投資を1社もしくは数社ですることは危険であり、したがって、よりオープンイノベーションが促進されると思う。その結果、優秀な技術の奪い合いが過熱していくだろう。そのときに備えて、技術を取得しようとする大企業、技術を供給しようとする発明者は、今から準備を始めること。その面で日本企業は欧米におくれを取っている。今後、知財の世界は明らかに、国際化の道をたどる。国際的な技術移転に資するべく、英語コミュニケーション力を持った専門家が数多く必要になる。国としてもこれからは、そういった人材の育成政策を打っていく必要が出てくるだろう。
JTGとしての今後の10年間は、より発明指向の技術移転会社として、出願から特許ポートフォリオの構築、ライセンス先探し、資金の手当てをも含めて、サービスを展開していきたい。また現在、アジアでは、日本発の知財のみを扱っているが、将来は、“アジア発の知財のゲートウェイ”として米国における存在感を増していきたいと考えている。加えてJTGは、技術関係の知財のみではなく、ソフトの知財、すなわち、日本文化の国際化についても取り組んでいく。この分野でも、日本人の専門性は非常に低く、日本文化が世界で非常に人気が高いにもかかわらず、日本への収益還元モデルができていない。海外在住の日本人専門家としてこの分野にも取り組みたいと考えており、日本の政府、企業や大学、知財ビジネスの事業者の方々にも注目していただきたいと思っている。
【「特許流通ニュースメール」2010年5月17日号】